液体への超音波照射によって、熱を加えることなしに、常温・常圧の液体中でフラーレン・カーボンナノチューブを合成する環境調和型の新規プロセスの開発を目指した。このプロセス方法は、ソノケミストリー(超音波化学)、もしくは、ソノプロセスと呼ばれる方法で、マクロ環境的には常温・常圧であるが、ミクロ環境的には数千度・数百気圧の極限環境反応場となっている。 前年度の研究において、ジクロロベンゼンに触媒として塩化亜鉛の粉末を入れた溶液に超音波を照射し、不定形炭素とグラファイトの混合物である黒いススを得た。ススが生成する速度は、実験装置に大きく依存し、超音波ホモジナイザーを利用すると数分オーダーでススが析出するが、超音波洗浄器を利用すると5時間以上かかることがわかった。しかし、いずれの場合においてもカーボンナノチューブの合成には至らなかった。 そこで、本年度は引き続き、カーボンナノチューブのソノケミカル合成を目指して、各種の実験条件を探索した。具体的には、主に以下の項目について研究を実施した。 1.溶存ガスの種類を変えたときのカーボンナノチューブ合成の検討 溶存ガスをアルゴン、空気、酸素、窒素と変化させてカーボンナノチューブの合成を検討した。ソノケミストリーにおいて、反応の溶存ガスへの依存性は非常に大きいことが知られているが、ベンゼン系溶媒を用いたソノケミカル合成においては、生成物の形態に大きな変化は無かった。 2.ソノルミネッセンス測光によるキャビテーション気泡内到達温度の評価 ソノルミネッセンスと呼ばれるキャビテーション気泡からの発光をスペクトル解析することにより、各実験条件での気泡内温度を見積もった。特に、超音波ホモジナイザーと超音波洗浄器の違いについて、極限環境反応場の観点から比較検討した。しかし、濃硫酸中で観察されるアルゴンの原子スペクトルから見積もった温度では、両者にほとんど違いがなかった。
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