本年度は超臨界水条件下で利用可能な蛍光分光装置の立ち上げを行った。ナノ秒パルスレーザーと波長変換用の非線形光学素子を用いて、266nmの励起光パルスを生成し、超臨界水用セル内の試料に入射した。試料より放出された蛍光をレンズを用いて分光器内に集光し、特定波長の蛍光を光電子増倍管により検出し、オシロスコープに信号として取り込んだ。各波長における蛍光強度を測定することにより、蛍光スペクトルを取得した。グアイアコールをリグニンモデル物質として、圧力25MPaにおいて、室温から400℃までの温度範囲において蛍光スペクトル測定を行った。その結果、温度上昇とともに、室温で観測される300nm付近のピーク強度が減少するとともに、より長波長側の350nm付近に新しいピークが出現することを新たに見いだした。新たに出現したピークの帰属については現在検討中であるが、二量化反応などにより平衡が移動し、高温水中では別の化学種として存在している可能性がある。これは従来の生成物分析による反応解析では得られない情報であり、超臨界水のような特異反応場においてその場計測を行うことの重要性を示すものである。詳細なスペクトル解析を行うためには、蛍光スペクトルのS/N比を改善することが必要であると考え、強度の安定性に優れるキセノンランプへ光源を変更した。さらに、光源、分光器およびオシロスコープをパソコン上から制御することにより、1分程度の短時間で自動的に蛍光スペクトルを取得するスペクトル測定装置を新たに作製した。この装置を利用して、種々の蛍光物質について測定を行い、270nmから600nmの広い波長領域においてスペクトル解析に十分な精度の蛍光スペクトルを得られることを確認した。
|