本研究では、水中に含まれるカチオン、アニオン、ならびにアミノ酸などのイオン種を、吸収および蛍光スペクトル測定により迅速かつ正確に定量することのできる「分子センサー」を開発する。申請者らの独自の発想に基づく分子設計により、(1)ターゲットイオンに対する高い選択性、(2)迅速な応答、(3)大きな応答の、従来の分子センサーで問題となっている3つの課題を克服する新規分子センサーを開発する。 平成21年度は、シアン化物イオンおよびフッ化物イオンなどに選択的に応答するアニオンプローブ、ならびに銅イオンおよび水銀イオンなどに選択的に応答するカチオンプローブの開発を行った。特に、シアン化物イオンに応答する新規プローブとしてスピロピランを提案した。本プローブは、紫外線の照射下で水中のシアン化物イオンと選択的に反応することにより、吸収スペクトルを大きく変化させる。検出限界は1.7μMであり、これまでに報告されたプローブに比べて極めて低い。さらに、本プローブは可視光を照射することにより、再びシアンを放出することにより再生することが可能である。酸や塩基などの化学試薬を使わずに再生操作を行えるシアン化物イオンプローブはこれが初めての報告である。 さらに本研究では、クマリンにチオウレアを結合させた水銀イオンセンサーを開発した。本分子は、水中においてHgイオンと選択的に反応することにより蛍光の消光を示す。反応は水銀イオンに対して定量的に進行し、極めて低濃度の水銀イオンを定量することが可能である。また本分子は、これまでに困難であった幅広いpH範囲(2~12)において問題なく水銀イオンを検出できることを見出した。
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