本研究では、水中に含まれるカチオン、アニオン、ならびにアミノ酸などのイオン種を、吸収および蛍光スペクトル測定により迅速かつ正確に定量することのできる「分子センサー」を開発する。申請者らの独自の発想に基づく分子設計により、(1)ターゲットイオンに対する高い選択性、(2)迅速な応答、(3)大きな応答の、従来の分子センサーで問題となっている3つの課題を克服する新規分子センサーを開発する。 平成22年度は、シアン化物イオンに選択的に応答するアニオンプローブ、ならびにクロム(III)、亜鉛(II)および銅(II)イオンに選択的に応答するカチオンプローブの開発を行った。シアン化物イオンに応答して発色する新規プローブとしてスピロピランを用いる分析法を開発した。本プローブの機能を詳しく解明したほか、スピロピラン類の熱異性化特性についても詳細な検討を行った。クロム(III)に対するプローブとしては、二座配位子をリガンドとする新規蛍光分子を開発した。クロム(III)に対するセンサーはこれまでほとんど報告例がなく、極めて特異な性質をもつ蛍光分子を開発することができた。さらに、亜鉛(II)イオンに応答する分子として、キノリンとポリアミンリガンドを結合させた分子を開発した。本分子は、水への溶解度が極めて高いほか、バックグラウンド蛍光を示さずかつ高い定量性を有する蛍光分子である。さらに本研究では、リガンド長さを代えた種々の誘導体を合成し、リガンド長さがセンサー性能へ与える影響を詳しく調べた。その結果、窒素数3のジエチレントリアミンリガンドを用いた場合に、最も高い性能を示すことを見出した。
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