本申請研究では、複核活性点の相乗的・協奏的分子活性化能に着目し、触媒活性点上で酸化剤や基質の活性化を行い有害な副産物を生成しない有機合成プロセスの開発を目的とする。本年度は、銅二核構造を有するKeggin型シリコタングステート(I)を用いてジアゾ化合物の活性化を行い、オレフィンのシクロプロパン化反応への応用を行った。Iの溶解したジクロロエタン溶液にジアゾ酢酸エチルを加えると、反応溶液が緑色から赤色に変化しN_2を発泡しながらカルベンの二量体であるマレイン酸ジエチルとフマル酸ジエチルが生成した。したがって、Iはジアゾ化合物の活性化能を有するため、触媒反応への応用について検討した。Iを触媒に種々のオレフィンのシクロプロパン化反応を行い、高い収率でシクロプロパン体を得た。ジアゾエステルを分けて加えることで、カルベンの二量化によるアルケンの収率を10%以下に抑制できた。スチレンのパラ位に電子吸引性・供与性基を導入しても収率に大きな変化はなく対応するシクロプロパンが得られた。嵩高いジアゾ酢酸-tert-ブチルに変えてスチレンのシクロプロパン化反応を行うと、cis/trans比が41/59から30/70となり、ジアステレオ選択性が向上した。収率は低下するものの反応性の低い末端オレフィンに対しても触媒活性を示した。環状オレフィンである2-ノルボルネンをシクロプロパン化すると、他の基質と比べてcis/trans=16/84とジアステレオ選択的にシクロプロパンを得た。Cu(OTf)_2を触媒に用いた場合には40/60となったことから、嵩高いポリオキソメタレート骨格による立体効果に因るものと考えられる。
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