平成22年度の研究では、初年度に開発した可視光照射下で機能する窒素ドープ型酸化タングステン(N-WO_3)光触媒と有機化合物の吸着性能に優れたゼオライト吸着剤との複合系光触媒を構築した。N-WO_3のみのBET表面積は10m^2/g以下ときわめて小さく、有機化合物の吸着除去には不利であるだけでなく、短時間で吸着飽和に達するため光触媒活性の低下が早い段階で起こることが問題であった。これに対し、シリカ含有率の高く表面疎水性の高いモルデナイトゼオライトと複合化したN-WO_3光触媒系は、ゼオライト本来の高表面積を維持しているため、気相中に希薄に拡散した有機化合物を速やかに吸着除去することができるだけでなく、450nmよりも長波長領域の可視光や太陽光の照射下で吸着した有機化合物を無害な二酸化炭素と水にまで完全酸化分解できることを見出した。しかも、表面積の小さなN-WO_3のみを用いてエタノールの光触媒酸化分解反応を行うと、中間生成物としてアセトアルデヒドが生成し気相中に拡散することを確認した。これに対し、N-WO_3微粒子をゼオライト吸着剤と複合化させた光触媒系では中間生成物が気相系にほとんど拡散しなくなる副次的効果が得られることがわかった。これらの結果は、空気清浄機に光触媒材料を搭載する際には高表面積を有するゼオライト等の吸着剤を複合化することでにおい物質の二次拡散を抑制できることを示唆している。
|