蛋白質を自由自在に細胞に導入する技術が整えば、細胞機能の制御がより直接的に設計通りに行え、細胞資源の大量調製プロセスの効率が向上すると考えられる。しかしながら、蛋白質の生理活性を損なうこと無く細胞内に導入し、細胞内の目的の場所で機能させることは、既存の技術では容易ではない。そこで、酵素反応を用いて細胞内導入用合成分子を部位特異的に修飾し、目的蛋白質を失活させずに効率良く細胞内に導入する方法を確立すること、を目的とした研究を行った。近年、蛍光色素を修飾したポリアルギニンペプチドは、細胞内に取り込まれた後に強い励起光を照射すると細胞質に放出されることが報告されている。そこで、ポリアルギニンに蛍光色素を修飾し、ペプチド連結酵素によって連結可能な配列を付加した色素修飾ポリアルギニンを合成した。これをペプチド連結酵素によって蛍光蛋白質(EGFP)のC末端に修飾し、細胞に導入した。その結果、励起光を照射した場合のみ、EGFP蛍光が細胞質全体に拡がり、設計通りに目的蛋白質を細胞質に送達できることが示された。また、この方法は、細胞に与える毒性が低いことも確認した。これより、ペプチド連結酵素によって色素修飾ポリアルギニンを部位特異的に修飾する方法が、蛋白質の活性を損なうこと無く細胞質内に蛋白質を送達する簡便な方法であることが示された。次に、今回開発した技術の応用研究を開始した。iPS細胞関連遺伝子の発現産物である4つの転写因子を細胞外で調製して、今回開発した方法を用いて体細胞の核に導入するという方法に取り組むことにした。ヒト由来のiPS細胞関連転写因子Sox2、Oct4、Klf4、c-Mycの遺伝子を購入し、大腸菌を用いた大量発現・精製系を構築した。研究実施計画に従って、次年度に、これらの転写因子群を上記の方法を用いて体細胞に導入する予定である。
|