本研究課題では、酵母の細胞外糖センサーRGT2・SNF3に注目しそれをSaccharomyces cerevisiaeによるキシロース発酵向上に利用することを最終目標としている。一方、酵母のキシロースの細胞内への取り込み、特に固有の五炭糖発酵能を有するPichia stipitis酵母における分子基盤はほとんど明らかとなっていない。そこで本年度は予定を一部変更し、まずP. stipitisの糖輸送体(これにはRGT2・SNF3ホモログも含まれている)の全容を明らかにするため、ゲノム上に存在する計37個の糖輸送体ホモログの糖輸送能の解析を行うこととした。まず、これらの遺伝子をサッカロミセス酵母の構成的発現プロモーターPGKにつなぐ形で自律複製型プラスミドにサブクローニングした。これを、主要六炭糖輸送体遺伝子(HXT1-7・GAL2)が欠損したS. cerevisiae KY73変異株に形質転換した。こうして作製した遺伝子組み換えKY73酵母を、KY73株の唯一の生育可能な炭素源であるマルトースで前培養し、グルコース・マルトース・フルクトース・ガラクトースをそれぞれ炭素源とする最少培地で生育できるかどうかを指標に六炭糖輸送体遺伝子のスクリーニングを行った。一方五炭糖輸送体の同定は、遺伝子組み換えKY73酵母に取り込ませたキシロース・L-アラビノースを再度細胞外へと排出させその濃度をHPLCで測定することで行った。その結果、主要六炭糖輸送体としてSUT1・SUT2・SUT3・HGT2・XUT1・XUT3・RGT2が、主要キシロース輸送体としてSUT1・SUT2・SUT3・HGT2が、主要L-アラビノース輸送体としてHGT2・XUT1が、それぞれ新たに同定された。興味深い点としては、(1)六炭糖・五炭糖輸送システムは相当程度リンクしている可能性がある(2)HGT2は解析したほぼ全ての六炭糖・五炭糖を効率的に輸送できる(3)S. cerevisiaeのRGT2には全く糖輸送能が無いが、P. stipitisのRGT2は少なくともマルトースは輸送できた。これはP. stipitisの糖センシングがS. cerevisiaeとは一部異なる可能性を示唆する。これら成果は今後のバイオエタノール生産のための酵母育種に重要な貢献ができると期待されるため、本年度内に特許出願を行った。
|