最終年度である本年度は、前年度までに同定したピキア酵母由来のキシロース輸送体遺伝子のサッカロミセス酵母キシロース発酵に及ぼす影響、及びサッカロミセス酵母の細胞外糖センサー遺伝子RGT2・SNF3の構成的発現によるキシロース発行に及ぼす影響について包括的な研究を行った。まず、優秀な宿主酵母菌の選抜を目的にこれまで使用していたIR-2株に替わる野生株の取得を行った。これは、IR-2株に関する特許が産総研に優先権があるため今後その使用に支障が出る可能性があるためである。IR-2株はキシルロース高代謝能を指標に得られた凝集性酵母であるが、今回熊本県で球磨焼酎製造に用いられている1200株を取得した。本株は他の株より高いアルコール発酵能を有している。1200株にキシロース代謝遺伝子群を染色体組み込みで導入した1200X株では、同様の形質転換を施したIR-2株と遜色ないキシロース発酵が確認された。これにより、今後は1200X株を主要な発酵酵母宿主として使用できる目途がついた。次に、この1200X株に前年までに構築したピキア酵母由来のキシロース輸送体遺伝子SUT1・HGT2・SUT1/HGT2のジェネティシンをマーカーとしURA3遺伝子座に染色体組み込みする系を用いて形質転換を行った。まず好気的条件でのキシロースを炭素源とする生育を見たところ、特にSUT1を組み込んだ株でコントロールより有意に速い生育を確認した。例えば、50g/Lキシロース条件では生育定常期に入る時間がコントロールに比べて24時間以上速かった。しかし、嫌気的条件下でのキシロース発酵ではこれら遺伝子を入れたことによる有意な影響は見られなかった。次に、サッカロミセス酵母の糖センサー遺伝子であるRGT2・SNF3の影響を調べた。これら遺伝子を導入する際にも、上記ジェネティシンをマーカーとする形質転換システムを用いた。興味深いことに、それぞれの遺伝子を構成的に発現させた株ではキシロースを炭素源とする好気的条件下での生育がコントロール株に比べて有意に速くなった。また、嫌気的キシロース発酵でもキシロース消費速度が速まる結果となった。これより、キシロースの取り込みそのものを行う輸送体の改良よりも、サッカロミセス酵母の持つ六炭糖輸送体の発現制御を行うシグナル伝達系の増強が結果としてキシロース発酵を増進させるという興味深い結果が得られ、当初の目標を達成することができた。
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