昨年度に引き続き、ニワトリ多能性幹細胞を樹立・誘導するために、培養環境を維持するためのフィーダー細胞の作製を行った。これまで哺乳類と比べて鳥類では、どの内因性および外因性因子が幹細胞の培養に必要な因子が同定されていない。そこで簡便にスクリーニングするために、STO細胞に外因性因子を発現するレトロウイルスベクターを作製後、さまざまな条件の組み合わせで遺伝子導入した細胞株を樹立した。ニワトリ胚盤葉細胞は、ニワトリES細胞の候補細胞として知られているため、胚盤葉期とよばれる発生ステージの明域部分からこの細胞の採取を行った。採取した細胞を用いて、樹立した細胞株上で培養を試みた。培養後RT-PCR法で解析したところ、比較的安定して未分化マーカーの発現が維持できる条件を決定することができた。また、低分子化合物を培地中に添加することで、分化細胞の増殖を抑制できることがわかった。一方、内因性因子発現用レトロウイルスベクターを初代体細胞へ遺伝子導入することにより、多能性幹細胞の誘導を試みた。初めに、原癌遺伝子の導入により細胞の増殖が上昇したことから、初代細胞増殖を上方調節できることが示唆された。続いて、ウイルスカクテルを初代体細胞へ導入したところ、day10程度から遺伝子導入のマーカーとして共発現するGFP陽性コロニーおよび陰性コロニーの形成が観察された。しかし、これらの細胞はある程度の増殖後、増殖の停止が認められた。day28でAP染色を行ったところ、染色されなかった。マウス多能性幹細胞を誘導する際でも同様のものがみられることから、初期化されなかった細胞と考えらえる。現在、他の内因性因子候補を取得中であり、またウイルスMOIの検討や誘導に適したフィーダー細胞環境を整備中である。これらを組み合わせることで、完全にリプログラミングされた多能性幹細胞が樹立できると考えている。
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