船舶運行時のCO2を主とした地球温暖化ガス削減を目的として船底塗料には生物付着を防止する機能を持たせている。メカニズムとしては船底塗膜から微量の防汚剤を溶出させ、生物に忌避を促す。防汚剤のひとつとして亜酸化銅があり、防汚剤の中で使用量が一番多い。また港湾などで船舶が起源と考えられる銅が残留する傾向が世界的に観察されており、銅に関する水生生物等へのリスク評価が急務である。実際に銅物質の中で水生生物に対して毒性物質として作用するのは銅イオンや無機銅を中心としたlabile銅であり、全ての銅化合物ではない。そのため正確なリスク評価を行うためには形態別量の把握が必要である。そこで昨年度はストリッピング・ボルタンメトリー(SV)法を用いてlabile銅量及び全銅量の銅形態別分析の開発及び確立を行った。 今年度は、実際海域での銅形態別量について分析を行った。試料採取場所として東京(東京港)、千葉(館山、千倉、蓮沼)、神奈川(江ノ島)、静岡(清水、熱海)を選択し、総計約40箇所程度の海水採取を行った。それぞれの天然海水試料についてSV法でlabile銅量及び全銅量の銅形態別分析を行った。 SV法での分析結果としてlabile銅量はN.D.から3.68ppb(最大値:東京港)の範囲で、全銅量はN.D.から5.54ppb(最大値:清水港)でそれぞれ計測された。その中で東京港の結果に注目すると、labile銅及び全銅の高い箇所は河口及び河川延長線上と港湾の近辺であった。ここで後者に関しては船舶起源の可能性及びその割合が高いと考えられる。今後については銅形態別量の経時変化の観察をするとともに、リスク評価の高度化のために海域での銅物質の構成割合の詳細、銅物質起源の割合について調べる必要がある。
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