世界中の様々な港湾で船舶の防汚塗料起源と考えられる銅の残留が観察されており、水生生物に対するリスクを評価する必要がある。そこで本課題では日本での実態把握を行うべく、平成21年度は銅の毒性に関連するlabile銅濃度計測法の確立、平成22年度には東京湾で海水採取を系統的に行いlabile銅濃度と全銅濃度の分布を明らかにした。平成23年度は、全銅濃度計測の高度化と東京湾での銅形態別濃度の経時変化観察を行った。 今までの全銅量計測法では、配位子との再結合が起こる可能性があり、見かけの濃度が若干低くなると学会等でコメントをもらった。そのため次のような前処理・分析法の改良を行った。(1)試料海水中に硝酸入れて、配位子の加熱酸分解、(2)次に固相抽出法で目的金属成分を取り出し、脱塩、(3)最後に硝酸で目的物回収及び定容し、誘導結合プラズマ質量分析装置で全銅濃度計測の手法開発を行った。本手法では、数種の実海水計測で1割程度の全銅量増加があった。 銅形態別濃度について経時変化を調べるために引き続き東京湾での夏季と冬季に系統的に海水を採取し、Iabile銅と全銅の濃度分析を行った。東京湾での銅濃度の経時変化の傾向として、荒川から東京湾へ流れ込む採取ポイントでは、試料海水のいずれもlabile銅や全銅の濃度が高く、河川からの銅の流入は定常的にあると考えられる。また東京港で計測したlabile銅濃度は最低1.26ppbと比較的高い値であり、船底塗料からの銅の影響を受けている可能性が高い。また他の採取ポイントにおいてlabile銅については最大1.14ppb、全銅については、最大6.64ppbであり、各ポイントで時間によってN.D.から各最大値までの濃度差がある。これらは一時的な排出源や潮汐等の水流に関する要因により変化するものと考えられる。このように東京湾の長期的な銅形態別濃度の経時変化について明らかにした。
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