研究概要 |
次世代核融合実験炉ITERにおいて,タングステン(W)は高融点,低スパッタリング率,低水素吸蔵などの特性によりダイバータ板や炉内計測用ミラーの候補材料となっている。低エネルギーのイオン照射によってはプラズマ対向材には損傷は起こらないと考えられてきた。しかし,最近の実験において,物理スパッタリング閾値以下のエネルギーのヘリウムイオン照射によって表面にバブル・ホールや繊維状ナノ構造の形成が確認されており,この材料を実際に使用するに当たっては,材料として改善しなければならない,あるいはあらかじめ厳密に評価しておかなければならない問題点が少なくない。本研究では繊維状ナノ構造の形成条件と照射損傷材料の構造を詳細に調べることにより形成機構を調べるとともに,繊維状ナノ構造の光学的特性に関して明らかにした。 Wの板状試料を直線型プラズマ発生装置NAGDIS-IおよびNAGDIS-IIを用いて様々な照射条件でヘリウムプラズマを照射した。照射温度,ヘリウムプラズマの入射エネルギー,照射量,材料表面方位などをパラメータとして系統的に照射実験を行い,1μmを越える長細いナノ突起がヘリウムバブルの自己成長過程により形成される様子を透過型顕微鏡による詳細観察より明らかにした。 更に,レーザーと積分球を用いた光吸収率計測により,633nmにおける光学的吸収率を計測した結果,照射後のサンプルの全反射率は1%程度であり,光学的吸収率が99%となっていることが分かった。波長の異なるレーザーを用いて,可視領域から近赤外領域における吸収率を計測した結果から,黒色化したWは太陽光スペクトルに対してほぼ完全な光吸収体となっていることが明らかになった。この材料は熱光起電力発電(光吸収体/エミッターからの輻射熱を化合物半導体系光起電力電池に導いて電力に変換する発電方式)用の太陽光吸収体として利用できる可能性があることを示した。
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