核融合炉のプラズマ対向材料は粒子負荷・熱負荷により損耗するため、真空容器内に堆積層やダストが形成される。容器内での水素同位体挙動の把握は、プラズマ制御、燃料サイクルシステム成立性評価、及びトリチウム安全管理の観点から重要な課題であり、金属再堆積層における水素同位体捕捉・放出挙動の定量的理解も求められている。本研究では、軽水素或いは重水素プラズマによりタングステン或いはステンレス鋼をスパッタリングして再堆積層を作成し、堆積過程で取り込まれた水素同位体量の捕捉・放出特性を調査した。本研究を通じて、核融合炉真空容器内でのトリチウム挙動を議論するためのこれまでにない基礎データが取得された。以下に主な成果を簡潔に示す。 タングステン堆積層への水素取込み量(H/W:原子数比)は、プラズマ放電時のガス圧や基板温度、取り込まれた不純物酸素濃度などの堆積条件の違いにより、0.01~0.30と変化することが明らかとなった。これら数値は、炭素堆積層への水素同位体捕捉量(H/C)に匹敵するほど大きな数値である。各パラメータがどの程度捕捉量の増加に寄与しているかの定量的把握は今後の課題である。そのため現状では、核融合炉条件下においての定量的予測は困難であるが、真空容器内に多量の水素同位体を取り込んだ金属堆積物が形成される可能性も否定できない。一旦金属堆積層に捕捉された水素同位体の放出には、600℃程度の加熱が必要であることも明らかとなった。タングステンに水素同位体イオンを照射した場合、捕捉された水素同位体は数100℃程度の加熱で放出されることが知られており、堆積過程で取り込まれた水素同位体は回収難い性質を持つと言える。放出速度は堆積層中の水素濃度の2乗に比例するとの仮定で、放出曲線が再現できることから、水素は堆積層中に原子状で取り込まれている可能性が高い。なお、316ステンレス鋼から形成された堆積層でも同様な結果が得られた。
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