研究概要 |
ペロブスカイト型Mn酸化物は,電荷,スピン,軌道,格子の強い相互作用により複雑な相図を示す。これらの相互作用は外圧,電場,磁場,X線といった摂動によりバランスを崩し,物性に劇的な変化をもたらす。中でもX線を用いた照射実験では,既知のものとは異なる興味深い照射効果が報告されている。既知の照射効果は格子欠陥の生成や化学結合の生成/切断を伴うが,上記の新奇な照射効果には僅かな格子歪みの変化が随伴するのみである。この特異な照射効果についての研究はほとんどなされておらず,その詳細は未解明のままである。そこで本研究では,多結晶体を対象として、当該X線照射効果発現の必票条件を見いだすことを目的とした。 研究対象として基底状態の異なるPrCaMnO3を選択した。当該物質中の、PrとCaの組成を変化させてMnの平均価数を変化させた焼結体を作製した。電子線プローブマイクロ分析の結果、得られた試料での均一な元素分布が確認された。この試料に対し、低温でX線照射しながら電気伝導度の測定を行った。その結果、単結晶試料では急激な伝導度上昇の観測された系においても、ほとんど永続的光伝導が観測されなかった。これは、多結晶試料における粒径が数μm程度であり、その結晶粒界における伝導電子散乱の寄与が大きかったためであると考えられる。 放射線検出素子としての応用を考慮する上で、多結晶試料を想定する。そのため、本研究の結果は、多結晶試料の粒径など、焼結条件の最適化による感度向上が必要であることを示すものである。
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