水素吸蔵合金層への水素の吸蔵・放出過程において、層の膨張・収縮現象にともなって変化する層の空隙率を用いて、層の有効熱伝導率と伝熱面と層の間の接触熱抵抗を推算しながら層内の温度分布と吸蔵放出量を予測する理論解析モデルを作った。層内で一次元また二次元的に熱移動が生じる系を対象とした本モデルの計算値を実験値と比較した結果、膨張・収縮を考慮すると全般に再現性が向上した。なお、有効熱伝導率の推算には、吸蔵量が大きく変化するプラトー領域で熱伝導率が顕著に変化する傾向を再現する式を、接触熱抵抗の推算には、粒子径、空隙率および圧力に依存する式をそれぞれ適用した。接触熱抵抗の推算式は抵抗を過小評価する傾向があり、計算値に及ぼす影響が小さいこと、仮に抵抗値を大きく与えた場合、計算値は実験値に近づくものの、吸蔵(高圧)時の抵抗値が放出時のそれを上回ってしまい、物理的に熱抵抗だけでは説明がつかないことが分かった。この傾向は一次元でも二次元でも同様であり、今後、モデル化では熱伝導と接触熱抵抗以外に層内の熱抵抗を考慮する必要がある。次に、水素吸放出時の可視化実験により、層内に生じるひび割れの発生条件、様相および層に占めるひび割れ部の割合を調べた。なお、層は充填層断面の様子が奥行き方向に一様と見なせる薄い層である。ひび割れは、水素放出方向に対して斜め方向に生じ、同じ場所にできやすいこと、また、ひび割れ部の割合は、放出速度を大きく(圧力を急減)すると増加し、最大で0.2%であること、そして、引き続いて放出速度を小さくした条件で吸放出を繰り返すと次第にその割合は減少することが分かった。さらに、ひびの割合が有効熱伝導率の低下に及ぼす影響を、熱伝導の直列熱抵抗モデルを用いて推算した結果、最大67%まで低下した。微小なひび割れが層内の熱移動に大きく影響することが推察された。最後に二次元系の可視化実験装置の設計を終えた。
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