水素吸蔵合金層への水素の吸蔵・放出過程において、まず、層の膨張・収縮現象にともない変化する層の空隙率を考慮した層の有効熱伝導率を推算するモデルを作成した。そして、層内温度分布と吸蔵放出量を予測する理論解析モデルの計算結果を検討した。新たに考慮するべき熱物質移動抵抗として、(a)膨張・収縮により生じる層内のひび割れに起因する有効熱伝導率の変化、(b)層内の水素流動による物質移動抵抗を考えた。 次に、水素吸放出時の可視化実験により得られたひびの割合とその発生条件の関係を検討した。水素吸蔵合金充てん層は直径が数μmの微粒子充てん層であること、合金自ら水素を木量に放出するため水素流動速度が大きいことなど、他の粒子充填層とは異なる特徴があるため、本研究では新たに粉体層の流動開始条件を層内の水素流動現象に適用し、ひび割れの発生条件を説明できるこどを明らかにした。 ひび割れにより層が均質でなくなり、ひび割れも含んだ層における有効熱伝導率の推算値は均質層のそれに比べて大きく低下する。この結果、熱物質移動の主たる抵抗は有効熱伝導率の低下に起因することがわかった。これらの知見を用いてフィン付き二次元形状の層に熱物質移動モデルを適用した。モデルでは層の有効熱伝導率の推算が重要であり、推算には吸蔵放出時の層の膨張収縮にともなう空隙率の変化を考慮し、層内の水素流動にともなうひび割れ、すなわち熱伝導パスの断絶による見かけの熱伝導率の低下も考慮することが重要である。その推算に有用な粒子径と流動速度の関係および流動速度とひび割合の関係を明らかにした。 以上をまとめると、本研究では、これまでのモデルに加えて、水素流動速度が層の最小流動開始速度に達しているか判断し。達していればひび割合を推算し、層の有効熱伝導率の推算に反映させることにより熱抵抗増大の影響も組み込んだ新しいモデルを確立できた。
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