燃料電池の出力電圧は直流であり、且つ、動作条件により大きく変動するため、通常はDC-DCコンバータやDC-ACインバータ等の電力変換装置を介して負荷に接続される。これらの電力変換装置はスイッチングモードで動作するため、動作周波数に応じたリップル電流成分を発生する。この場合、燃料電池には平均直流電流にリップル電流が重畳した電流が流れることになり、それに応じて燃料電池の電位も変動することになる。固体高分子形燃料電池の主な劣化モードとしてPt/C触媒の有効表面積の低下が挙げられるが、この劣化モードは電位変動によって顕著に進行することが知られている。本研究では、電力変換装置との相互作用により発生する高周波の電位変動が燃料電池の触媒劣化に及ぼす影響を定量的・定性的に評価することを目的としている。 非発電状態の燃料電池に対し、1Hz~1kHzの周波数範囲内で0.6~0.9Vの正弦波状の電位を50時間に渡り印加し、触媒有効表面積の劣化傾向の観察を行った。その結果、100Hz以上の周波数域での劣化率は直流電位維持時と同程度であったのに対して、100Hz未満の周波数域では劣化が顕著になることが確認された。 一般的に非発電状態のセルのサイクリックボルタモグラムでは、電位が0.4V付近では電気二重層容量の充放電のみに起因した電流が、それ以上の電位領域では電気二重層の充放電に加えてPt/Cの酸化還元に起因した電流が観察される。そこで、非発電状態のセルに対して任意の周波数の微小電位変動を0.4V以上の電位領域において加え、電気二重層容量の充放電に起因した電流とPt/Cの酸化還元に起因した電流の分離を試みた。その結果、100Hz以上の高周波領域では主に電気二重層の充放電に起因した電流のみが流れるのに対して、100Hz未満の低周波領域ではPt/Cの酸化還元に起因した電流も流れることが分かった。 以上の結果より、電力変換装置を設計する際に100Hz未満のリップルが発生しないよう設計することが触媒劣化率を低く抑える観点で有効であることが示された。
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