「遺伝子改変マウスにおける癌発症性の検索、及びその病理解析」としてtob遺伝子欠損マウスと癌遺伝子である恒常活性化型Rasを肝臓特異的に発現するトランスジェニックマウスを交配し、得られた個体で発症する癌の形態・悪性度等の相違を調べた。肉眼所見と病理解析の結果から、Rasの発現に加えてtob遺伝子の欠損が伴うと発症時期は数ヶ月程度早くなり、また個体当たりの癌の数・大きさがそれぞれ有意に増加することが分かった。従って肝臓癌のマウスモデルにおいてtob遺伝子が癌抑制遺伝子として関与することが示唆された。次に遺伝子改変マウスで生じた癌にどのような特徴があるかを詳細に理解するために、遺伝子発現マイクロアレイ解析を行った。統計学的評価の結果、細胞増殖や細胞死の制御に関わる遺伝子群として、IGF-1やBTG2など8種類の遺伝子に顕著な発現変動があること見出した。定量的PCRとノザン解析を行うことで、実際に発現量に差があることを確認した。さらに10対以上の検体からRNAサンプルを抽出し、いずれの例においても当該遺伝子が同様の発現変動を示すことも確認できた。しかし、これらの遺伝子変動は癌の有無との相関は非常に強いが、tob遺伝子の有無とは関連がないものであった。そこで、tob遺伝子の欠損が発癌促進に及ぼした影響を理解するためのマイクロアレイ解析を再度実行した。現在、データ解析により候補遺伝子を絞り込みつつある。 一方、細胞死抑制のためにtob遺伝子の発現が上昇してくる分子機構の解明に取り組み、まず、tob遺伝子の発現誘導を強く抑制する低分子化合物の発見に至った。次にタンパク質の2次元電気泳動解析を行うことで、その化合物の標的分子を同定した。RNAiでその分子の発現を抑制した時に、発現誘導されたTobがタンパク質分解をうけることが分かった。以降の生化学的な解析によって、不要な細胞死を防ぐために細胞死を抑制する効果を持つTobをタンパク質分解機構から防御するという、新しい分子機構を発見した。
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