生物は非常に長い時間をかけて進化し、複雑なシステムを作り上げてきた。どのようにしてこのシステムが出来上がったのか、未だ明らかではない。これまでにも様々なメカニズムが考えられてきたが、遺伝子の重複とその後に引き続く機能獲得がゲノム進化の最も基本的なプロセスであると考えられている。しかし、重複をおこした遺伝子の多くの場合は進化に寄与することなく、集団から失われてしまう。重複した遺伝子が集団中に広まり、新しい機能を獲得するためには、自然選択の影響を受けることが重要であると考えられている。しかし、自然選択の影響を調べることは簡単なことではない。そこでわたしは、重複遺伝子に働く自然選択の影響を調べることができるように、遺伝子系図学を応用したシミュレーションプログラムを開発した。時間をさかのぼるにつれ、サンプル中の遺伝子が共通祖先にたどり着くプロセスをシミュレートするものである。重複遺伝子に働く自然選択の影響を考慮したプログラムはこれまでに作られておらず、この点において本研究は新しい。このプログラムを用いて、重複遺伝子が誕生してからの時間経過とともに、周辺の遺伝的変異量がどのように変化するかを調べた。その結果は北海道大学で行われた遺伝学会において発表した。さらに、データから自然選択の影響を統計的に導きだすためのテストを考案し、その検出力についても研究を行った。 また、重複遺伝子間に働く遺伝子変換は、その影響を適切に理解しておかなければ、データ解析において誤った解釈を導きうる。遺伝子変換が重複遺伝子の配列情報に及ぼす影響について、日本進化学会ワークショップにおいて講演を行った。
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