ゲノムの重篤な傷となるDNA二重鎖切断(DSB)の組換え修復については、DNAレベルの素過程の理解が進んできたが、生体内では、DSBを修復するために組換えの鋳型として姉妹染色体あるいは相同染色体を使うという「染色体の選択問題」が加わる。体細胞期の組換え修復では姉妹染色体間が優位なのに対して、相同染色体の正確な分配を確実にする減数分裂期組換えは相同染色体間で起きる必要がある。しかし、生物学的に重要なこの組換え修復の違いを作る仕組みはよくわかっていない。 本年度では、課題AとB共に大きな進展があった。DNA損傷チェックポイントキナーゼRad53(Chk2ホモログ)は、体細胞期では1個のDSBでも活性化されるが、減数分裂期組換えを開始するために計画的に200個近く形成されるDSBに対して活性化されない。そこで課題BではRad53が減数分裂期の計画的DSBに応答しない生理的意義を検討するために、Rad53を減数分裂期で強制的に活性化する系を構築し、その影響を調べた。結果、Rad53は減数分裂期組換え(相同染色体間組換え)を阻害した。さらに減数分裂期組換えに欠損を示すdmc1Δ株では、Rad53の活性化は、体細胞期型の組換え修復(姉妹染色体間組換え)を促進することが示唆された。これはRad53と組換え制御を関連づけた世界で初めての結果であり、「減数分裂細胞はRad53に制御される体細胞期型の組換え修復を抑えることで減数分裂期組換えを促進する」可能性が示唆された。次に減数分裂期のRad53抑制の機構を調べる手がかりとしてRad53を活性化している減数分裂期特異的変異を検索した結果、rec8Δ変異株を得た。よって減数分裂期特異的コヒーシンで染色体構造の要であるRec8ΔがRad53抑制に関与することが示唆された。さらに重要なことに、rec8ΔではRad53活性化が異常な組換えを起こすことを見つけた。従ってRad53抑制制御の異常が減数分裂期組換えエラーの原因となる可能性を示した。
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