研究概要 |
河口域・内湾域に発達するヨシ原や干潟は、高い一次生産性を持つ生息場所であり,多くの稀少な生物種の生息場所としても重要である.本研究ではヨシ原-干潟生態系を対象とし、底生動物の広域分布状況を調査するとともに,炭素・窒素安定同位体比(δ^<13>C・δ^<15>N)を用いて沿岸生態系内の物質循環過程を推定した. 巻き貝のウミニナ類の分布状況を東北地方太平洋岸の干潟において調査した.その結果,ウミニナ(希少種)とホソウミニナ(普通種)については,形態による種同定が困難であることがわかった.そこで2009年度はまず,PCR-RFLP法による遺伝子同定手法を確立した.また,仙台湾の干潟に優占して生息するカワゴカイ類の餌利用を,δ^<13>C・δ^<15>Nから推定したところ,川に近い場所では河川由来デトリタスを主な餌としており,その寄与は季節間で変化した.カワゴカイと比べ,高い食物段階にいる底生動物である巻き貝サキグロタマツメタ(捕食者)についてもδ^<13>C・δ^<15>Nを測定し,餌利用の空間変動を解析した.その結果,餌となるアサリの現存量に応じた餌利用変動が見られた.彼らはアサリの多い干潟ではアサリを専食しているが,アサリの少ない干潟では小型のユウシオガイを専食していることがわかった.いずれの干潟でも,サキグロタマツメタや二枚貝の餌に対するヨシや陸上植物由来Cの寄与は極めて小さかった.以上の結果をまとめると,ヨシをはじめとする高等植物由来のリターやデトリタスは,ごく限られた底生動物種によってのみ餌として利用されており,干潟生態系全体で見たときの寄与は大きくないことが示唆された.
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