研究課題
内湾域に発達するヨシ原や干潟は高い生物生産性を持つ生態系であり、多くの稀少ベントス種の生息場所として重要である。そこで本研究では、ヨシ原及び干潟に生息する希少な底生動物の広域分布状況を調査するとともに、底生生物による陸域由来有機物の摂食・同化可能性について、炭素・窒素安定同位体比(δ^<13>C・δ^<15>N)を天然のトレーサーとして推定した。干潟に生息する巻貝であるウミニナの個体群構造と遺伝的特性を、本州最北の生息地である青森県むつ湾の個体群を対象として調べたところ、むつ市の芦崎干潟ではここ数年のうちに加入したと推定される若齢コホートが確認された。ミトコンドリア遺伝子COI領域の塩基配列に基づき、本生息地におけるウミニナ個体群の遺伝的多様性を評価した。その結果、むつ湾内の他の生息場所と比較して遺伝的多様性も高いことがわかった。三重県津市の田中川河口に発達したヨシ原干潟において、底生動物の餌利用を生息場所間で比較した。その結果、干潟と隣接したヨシ原の間で、ベントスの餌利用が明瞭に異なっていることがわかった。ヨシ原内に生息するフトヘナタリでは、干潟に生息する個体と比較してδ^<13>Cが数‰程低いことから、ヨシ原内ではδ^<13>Cが低いヨシ由来有機物の寄与が高まることが示された。また、ヨシ原に暮らすベントスの中には、河川や池の水に由来する懸濁有機物など、種々の異地性流入有機物を特異的に利用する種が確認された。この結果は、ヨシ原に生息するベントス種にとって、餌の供給源となり得る隣接ハビタットをも含んだ広域的な環境保全が必要であることを示している。
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