2009年7月26日から8月12日の間ブラジルに渡航し、サンパウロ州立大リベランプレト校文理学部生物学科のナシメント教授らとともに冬期のサタンアシナガバチを8コロニー採集し、マイクロサテライトマーカーによる分析のため採集し、日本に持ち帰った。 採集した巣から得た成虫や未成熟個体からDNAを抽出し、6遺伝子座でマイクロサテライト領域の分析を行った。サタンアシナガバチがサテライト巣を建設する意義として、繁殖メス間の社会的軋轢の解消が考えられた。すなわち、コロニー内に複数の繁殖メスがいるとき、劣位の繁殖メスが本巣を離れ、サテライト巣を建設して繁殖を行うというものである。この場合、コロニー内の血縁度は巣盤間よりも巣盤内の方が高くなることが期待される。また、巣盤間で遺伝子頻度が異なることも期待される。しかしながら、コロニー内に複数の繁殖メスがいたコロニーがあったにも関わらず、DNA分析の結果は、期待されたこれらの予測を支持しなかった。ただし、遺伝子頻度は卵や幼虫、蛹、成虫といったコホート間で異なったことから、優位な繁殖メスはしばしば交代していることが示された。 また、サタンアシナガバチの巣はヒメバチの一種Pachysomoides sp.によって頻繁に寄生されていることが判った。サテライト巣を建設する意義として、繁殖メス間の社会的軋轢の解消以外にも、寄生者による寄生のリスク分散が考えられた。すなわち、コロニー内の一巣が寄生者により激しく寄生されたとしても、他のサテライト巣が寄生されていなければコロニーとしては成功していると言える。そこで、サテライト巣を建設することにより寄生のリスクを低減することができているかを検討したが、このような関係は見られなかった。 2011年3月13日から29日までの間、サンパウロ州立大リベランプレト校文理学部生物学科のナシメント教授の研究室を再訪し、サタンアシナガバチを16コロニー採集した。
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