親の子への投資の進化は進化生態・行動生態学の中心課題の一つである。特にどちらの性が育児を担当すべきかは重要な命題で、雌雄双方が育児に参加するには複雑な条件が必要となるとされている。現在1)直前の相手の投資量から現在の自分の投資量を決める、2)相手の投資量にかかわらず、最初に決めた分だけ投資する、の二つの説が有力である。ヨツボシモンシデムシはネズミなどの小型脊椎動物の死体を地中に埋葬し、雌雄で幼虫に口移しで餌を与えるなどの世話をする。片親を取り除いた場合、残った個体が給餌回数を増やすことで対応することから1)の説が当てはまると考えられてきた。しかしSuzuki&Nagano(2008)はオスの給餌回数はメスに重りを付けて行動を制限しても増えないことから、直前のメスの行動とは無関係と仮定した。この結果はオスによる給餌が直接幼虫の生存率に影響を与えない可能性を補強している。 そこで、育児においてオス親がメス親よりも多く投資する行動がないか、網羅的に調べた。オス親の存在は死体の埋葬速度やメスの労働量を変化させないが、同種個体が侵入してきた場合産卵前はオス同士メス同士で争うのに対し、産卵後はどちらの性でもオスが高頻度で防衛に参加した。これらの結果は既に論文として報告した。モンシデムシのオスが育児に参加する意義は巣の防衛以外にないと確認された。 一連の成果を報告するため、日本昆虫学会和文誌にて特集"シデムシ研究の潮流"を企画し、4名の著者による5本の論文を掲載した。
|