研究概要 |
高度な社会性を獲得したシロアリのコロニーにおいて,繁殖を担うのは巣を創設した一次生殖虫であるが,それらが死亡したり繁殖力が低下した場合には,未成熟個体から精巣や卵巣だけを大きく発達させた個体(補充生殖虫)が分化することが多くの種で知られる。繁殖上の分業を維持することは,シロアリの社会性を維持する上で極めて重要であるので,補充生殖虫の分化は厳密に調整されているはずであるが,一次生殖虫の存在下では出現しないこと以外ほとんど分かっていないのが現状である。そこで本研究は,シロアリにおける繁殖上の分業の維持メカニズムを明らかにすることを目的とし,形態や行動が大きく変化する補充生殖虫の分化に注目して,生態学的・形態学的・分子生物学酌アプローチから解析することを試みる。本年度はヤマトシロアリを材料として,(1)補充生殖虫の分化に伴う形態的な変化を整理し,(2)人為的な補充生殖虫の分化誘導の確立を試みた。さらに,(3)野外で採集した最終齢のニンフと補充生殖虫,および飼育下のコロニーから回収した女王の脳を取り出し,生体アミン(ドーパミン,セロトニン)および代謝産物量をHPLC-ECDにより測定して比較した。(1)および(2)では,5ステージ目のニンフ(7齢個体)を母巣から隔離することにより,補充生殖虫の分化を効果的に引き起こすことができること,および分化後に卵巣小官数が顕著に増大することを明らかにした。(3)では,本種1個体の脳でも生体アミン量の測定が可能であることが示され,セロトニン量やドーパミン代謝産物量に3者間で相違が見られた。今後,各アミン量と卵巣発達との関係性などについてより詳細な解析を進める予定である。以上の結果の一部は,原著論文にまとめると同時に,第11回日本進化学会,第69回日本昆虫学会,第57回日本生態学会にて発表した。
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