これまでの突発的な富栄養化「レジームシフト」に関する研究は、沿岸帯に生息する沈水植物(macrophytes)が存在する湖沼での例がほとんどである。現在開発中の予測モデルは、沈水植物ではなく、底生付着藻類(benthic algae)も同様にレジームシフトを引き起こす可能性があるか調べている。デンマーク国立環境研究所と米国のWright大学との共同で、湖沼の水質やプランクトンに関する野外データに基づいたレジームシフト予測モデルの構築を行なった。その結果、底生付着藻類も沈水植物と同様、湖沼のレジームシフトを引き起こす要因になりうることが分かった。光合成による一次生産は水域生態系における生態系機能の一つで、レジームシフトとともに生態系機能がどう変化するかはまだ明らかにされていない。本研究では、レジームシフトの可能性評価に加えて、富栄養化に対する湖沼全体の一次生産量の変化を、湖沼の規模と形状を考慮して解析を行なった。そこで、水中内の光条件に依存した光合成モデルを湖沼全体の一次生産モデル(植物プランクトン+底生付着藻類)に組み込み、湖沼全体の一次生産量を理論的に計算したところ、湖沼の規模や形状によっては、栄養状態が貧栄養状態(底生付着藻類優占)から富栄養状態(植物プランクトン優占)へとレジームシフトが起こるときに一時的に湖沼全体の一次生産量が減少することが理論的に明らかになった。本年度は、野外データと数理モデルからの結果との相違点を解決し、論文にまとめて米国生態学会誌であるEcology誌に投稿したところである。
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