日本に生息するミツバチ類には、在来種であるニホンミツバチのほかに戦後に農業用の生物資材として導入されたセイヨウミツバチが生息している。近縁のマルハナバチでは外来種のセイヨウオオマルハナバチと在来種のオオマルハナバチおよびクロマルハナバチとの間で種間交雑が起きるため、在来種の減少要因の一つとなっていることが示されている。しかしながら現在までマルハナバチと同じように導入されたセイヨウミツバチは、在来種のニホンミツバチの繁殖構造や遺伝的多様性にどのような影響を与えているのか不明であった。そこで申請者は、セイヨウミツバチの帰化による影響を明らかにするために在来種であるニホンミツバチについてDNAマーカーによる遺伝構造の解析を行った。マーカーとして、ニホンミツバチからマイクロサテライトDNAマーカーの作成を行い、12種類の多型マーカーの作成に成功した。そこでこれらのマーカーを利用して解析したところ、両種が生息している地域は、ニホンミツバチの遺伝的多様度が極めて低いことを明らかにした。またセイヨウミツバチとニホンミツバチの間で種間交雑が起きていることを野外観察実験及び分子生態学的手法により示した。さらに人工授精法による種間交雑実験により、産卵を誘導させる実験を行ったところ、一部の女王蜂が繁殖様式を雌性単為生殖へと変化させていることをマイクロサテライトDNA解析により明らかにした。これらの結果から、ニホンミツバチはセイヨウミツバチとの種間交雑により雌性単為生殖を行うようになり、その結果として遺伝的多様性の低下の原因となっている可能性が示唆された。
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