研究概要 |
訪花動物による「盗蜜」は、これまで植物にとって不利益を与えると考えられてきた。しかし、盗蜜に対する他の送粉者の反応と、それを介した植物の繁殖への間接的な影響はこれまで注目されてこなかった。 マルハナバチーエゾエンゴサク送粉系について2年間にわたる野外調査を行った結果、盗蜜された割合の高い集団では、種子生産量(果実数と種子数)が低下していた(Dohzono et al. 2008)。果実数の低下は、適法訪花をする在来マルハナバチが盗蜜花を避け、株内訪花が減少したため、また果実あたりの種子数の低下は、蜜量の減少により在来マルハナバチの滞在時間が減少したため、と推測されるが実証データは得られていない。加えて、種子生産量が低下しても、他家受粉率は増加している可能性にも注目する必要がある。本年度は、野外調査を中心に、送粉者の行動と遺伝的多様性の関係を解析した。 (1)野外調査:調査地は、申請者がこれまで調査を行ってきた北海道日高地方において、盗蜜の頻度が異なる5地点にコドラートを設置した。各地点にて、30個体の葉っぱと果実をサンプリングし、遺伝的な解析に使用した。また、新規にコドラートを設置し、エゾエンゴサク170個体を識別し、送粉者の行動観察を行った。花粉移動のパターンを解析し、送粉者の行動との関係、花粉分散距離について検討している。 (2)遺伝解析:遺伝解析には,多型性の高いマイクロサテライトマーカーを使用する必要があり、今年度はマーカー開発を行った。50個のプライマーを設計し、エゾエンゴサクの集団内の多型性を確認したところ、5個のプライマーが遺伝的多様性の評価に使用できることがわかった。遺伝的解析にはさらにプライマーを増やす必要がある。 (3)論文執筆:マルハナバチ送粉系における花形態の進化について論文をまとめた。
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