本研究では、エンドウヒゲナガアブラムシの内部共生系を実験対象とし、共生細菌Regiella感染によって賦与される宿主昆虫の植物適応機構の実態と、その生物機能が特定植物(シロツメクサ)においてのみ有効に発揮される機構について明らかにすることを目標としている。本年度は、アブラムシが唯一の餌とする植物師管液の組成の植物間での比較解析と、餌植物と共生細菌の体内動態の関係を明らかにするための解析を行った。1)純粋な植物師管液の採取が非常に困難であったため、植物自体を安定同位体標識し、そこからどのような物質がアブラムシに取り込まれるのかを明らかにするための方法を開発した。これまでに、効率的な植物体の標識方法、サンプルからの化学物質抽出法や、さらには物質の検出・同定のためのNMRを用いた化学物質の網羅的検出法の開発を行った。本法の開発により、実際に昆虫によって摂食される化学物質を網羅的かつ定量的に比較できるだけでなく、Regiella感染によって賦与される代謝経路について明らかにできると期待される。2)定量PCRを用いて、Regiella感染が宿主に適応度を賦与するシロツメクサ、および賦与しないカラスノエンドウを餌としたときの、アブラムシ体内での必須の共生細菌Buchneraと任意共生細菌Regiellaの存在量を解析した。その結果、Regiellaの存在量は餌植物を変えても変化しなかった。一方、Buchneraの存在量はカラスノエンドウを餌としたとき著しく減少したが、シロツメクサでは減少が見られなかった。このことから、シロツメクサへのアブラムシの適応にはRegiellaによる機能賦与だけでなく、Buchneraとの複雑な相互作用が関与していることが示唆された。
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