研究概要 |
年間300件近く日本沿岸に漂着する海棲哺乳類について、HABs(大量発生有害藻類)による藻類毒の暴露状況を病理学および化学分析学手法を用いてスクリーニングし明らかにすることを目的とし平成21,22年と調査を実施した。サンプル数は、ヒゲクジラ亜目では1科1属3種6個体、ハクジラ亜目は5科12属17種118個体で、計124個体。食肉目ではアシカ科1属1種2個体、アザラシ科1属2種82個体で、計84個体であった。両分類群ともに最終サンプル数は大幅に増え、地域も北海道から九州まで広範囲に渡った。このような好条件下でスクリーニングできたことは大変有意義である。化学分析は参考文献の豊富なドウモイ酸、ブレビトキシン、サキシトキシンの3つに絞り、それぞれ市販ELISA kitを使用し分析を実施した。今回の結果を参考文献と比較・検討した結果、個体に影響を及ぼす数値は検出されなかった。加えて、病理学的にも藻類毒による影響を確実に断定できる症例は観察されなかった。既に多くの症例を経験している米国カリフォルニア沿岸のNOAAならびにThe Marine Mammals Centerの藻類毒研究者と昨年5月に開催された国際海棲哺乳類医学会(IAAAM)の会場で協議した結果、病理学的に診断できるのは米国でも限られた症例のみであるとの情報を頂き、本結果を考察する上で大いに役立った。今回の結果から、日本沿岸に棲息する海棲哺乳類は緊急性を要する藻類毒暴露は認められず、日本周囲の海洋環境を把握する一助に繋がった。誰かがスクリーニングを実施しないことには暴露の有無を検討することは出来なかったため、本研究を実施したことは大変有意義であった。しかし、鯨類で解析できた個体数は年間の漂着件数の半分にも満たなかったこと、こうした解析は継時的変化が重要となってくることを考えると今後も個体数を増やし、さらなる調査および解析が必要である。
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