光合成反応の場であるチラコイド膜の脂質組成は、酸素発生型光合成生物で非常によく保存されており、多量のガラクト脂質を含むことが知られている。しかし、何故チラコイド膜に多量の糖脂質が存在するのか、なぜ極性頭部にガラクトースが利用されているのか、その理由は明らかではない。植物葉緑体およびその進化的な祖先であると考えられているシアノバクテリアの光合成膜は、非常によく似た脂質組成をしているが、その合成経路は異なることが分かっている。光合成膜に最も多く存在するモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)は、植物葉緑体ではMGDG合成酵素によるジアシルグリセロールへのガラクトース転移反応により合成されるのに対し、シアノバクテリアではまずグルコースがジアシルグリセロールに転移された後、異性化酵素によってMGDGに変換される。そこで、このシアノバクテリアの異性化酵素に着目した。この遺伝子を同定し、遺伝子破壊株が作製できれば、MGDGの極性頭部がグルコースに置き換わった株が単離できると期待される。まず、比較ゲノム学的解析からこの異性化酵素の同定を試みた。この合成経路はシアノバクテリアでしか知られていないことから、ゲノム情報が公開されている13種のシアノバクテリア間で保存されており、かつ他の生物種で保存されていない遺伝子を検索したところ、75の遺伝子が抽出された。このうち異性化酵素と有意な相同性を持つ遺伝子の破壊を試みたところ、完全に破壊することができなかったことから、この遺伝子は必須遺伝子であると考えられた。現在、植物型MGDG合成酵素を導入した株や、MGDGを加えた培地を用いて、この遺伝子が完全に破壊された株が単離できないか調べている。
|