研究概要 |
緊縮応答と呼ばれる原核生物に普遍的に見られる生理応答が葉緑体に保存されており、植物の示す様々な高次機能を調節することがわかってきた。多くの原核生物ではこの因子は必須なものであるため、植物細胞内でも重要な働きをしていると思われるが、その機能はよくわかっていない。その制御機構のメカニズムを明らかにすることを目標に研究を進めた。 シロイヌナズナのゲノムには原核生物型緊縮応答因子と相同性のあるタンパク質をコードする遺伝子が4つある(RSH1,RSH2,RSH3,CRSH)。昨年度までに、カリフラワーモザイクウイルス由来35Sプロモーター下流にRSH3遺伝子を繋いだコンストラクトを、シロイヌナズナに導入することで、RSH3を過剰に発現する組換植物体を得た。得られた組換植物体は野生型に比べ薄緑色であり、クロロフィル量が大きく減少していた。今年度は、このRSH3過剰発現体の解析を重点的に進めた。 まず電子顕微鏡でRSH3過剰発現体の葉緑体構造を観察したところ、野生型と比べ、一細胞当たりの葉緑体数に変化は無かったが、個々の葉緑体が萎縮していることがわかった。このことから植物の緊縮応答は正常な葉緑体の発達に重要な役割を果たすことがわかった。またこの過剰発現体が薄緑色の表現型を示すのは、この葉緑体の発達不全が原因と考えられた。 次にRSH3過剰発現体における、葉緑体遺伝子の転写産物(mRNA)および葉緑体遺伝子翻訳産物(タンパク質)量をそれぞれ、リアルタイムPCRおよびウエスタンブロッティングで解析した。その結果、この過剰発現体では、葉緑体遺伝子のmRNA量が全体的に減っていることがわかった。しかしながら、そのタンパク質量の変動は遺伝子によりばらつきが見られた。このことから、葉緑体の緊縮応答は、葉緑体ゲノム上のほとんどの遺伝子の転写と翻訳両方を調節すること考えられた。
|