本年度は、機能獲得型の実験により、候補遺伝子としてすでに単離している新規輸送体タンパク質のピルビン酸輸送能を生化学的に証明することを目的とした。実験方法の異なる二つの実験を並行的に進めた。(1)組換え体酵素をリポソーム再構成実験系に供し、輸送能を調査する。(2)組換え体タンパク質を発現させた大腸菌を用い、付加された輸送活性を求める。(1)のアプローチではプロテオリポソームへのピルビン酸の受動的輸送により、うまく評価することができなかった。これは、ピルビン酸の物質的性状に依存すると考えられ、このアプローチには限界がある。一方(2)の取り組みにより、ナトリウム依存的なピルビン酸の取り込みを大腸菌全体を用いることで見いだすことに成功した。これにより本年度の目的を十分に達成したものと思われる。 また、共同研究者のデュッセルドルフ大学のアンドレアスウェーバー博士により、もう一つ新規な候補選伝子として、プラスチド局在のプロトン/ナトリウム交換輸送体機能をもつと推察されるタンパク質をコードする遺伝子が単離された。我々が既に解析しているピルビン酸輸送体に加えて、この遺伝子翻訳産物が協同的に働くことで、ピルビン酸の取り込みによって生じるナトリウムイオンの蓄積をうまく解消しながら継続的なピルビン酸輸送を達成する分子機構が存在するのではないかという仮説を導くことができた。この仮説は、植物のプラスチドにおける物質輸送の全く新規な輸送メカニズムの存在を示しており、この協同仮説を引き続き検証する必要がある。
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