シロイヌナズナ発達種子におけるアブシジン酸(ABA)蓄積量を詳細に解析した。受粉後のサヤ全体にけるABA量は、9日目(21日で完熟)にピークとなり、12日目に一度減少した後に再び上昇した。サヤを種子とそれ以外の部位(主に果皮)に分離してABA量を測定した結果、種子形成中期(9日目)のABAは主に種子に分布し、後期(12日目以降)のABA量上昇は主に果皮によることが明らかになった。野生型とABA欠損変異体(aba2)の掛け合わせによるF_2種子の種皮は母体植物(ABA2/aba2)に由来するため野生型になるが、配偶子由来の胚および胚乳は野生型とABA欠損型が3:1に分離する。F_2種子におけるABA量を1個体ずつ分析することで、種子中に蓄積するABAが種皮由来であるか、胚もしくは胚乳に由来するものかを区別することが可能になる。種子中のABA量がピークとなる受粉後9日目においては、ABAの蓄積量に関してF_2種子集団内で野生型とABA欠損型を区別することができなかった。すなわち胚および胚乳がABA欠損型となっても種子に蓄積するABA量は野生型と同等である。一方で種子形成後期にあたる15日目のF_2種子集団内では野生型に比べて明らかに内生ABA量の減少した個体が全体のおおよそ1/4の頻度で存在することが明らかになった。これらのことから、ABAは種子形成中期には主に母体由来の組織(種皮もしくは母体植物からの移動)で合成され、後期には主に胚もしくは胚乳において合成されていることが予想された。受粉後9日目の種子内に蓄積するABAは母体由来であることが示されたが、種子を胚とそれ以外(種皮および胚乳)に分離してABA量を分析したところ、ABAは主に胚に分布していることが明らかになった。このことから種子形成中期においては母体由来組織で合成されたABAが胚に移動していることが考えられた。
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