シロイヌナズナにおいて、AtNCED6およびAtNCED9によってコードされる9-cis-エポキシカロテノイドジオキシゲナーゼが種子におけるABA生合成の鍵酵素をコードしている。AtNCED6は種子形成前期から中期にかけての胚乳で発現しており、AtNCED9は種子形成中期の種皮および中期から後期にかけての胚において発現している。AtNCED9の種皮における発現に必要なシス配列を同定し、ホメオドメインロイシンジッパータンパク質であるATHBファミリーがその配列に結合する事を明らかにした。組織特異的に調整したRNAを用いた定量的RT-PCR解析により、種皮特異的に発現するATHB遺伝子2種をAtNCED9の発現調節因子候補として絞り込んだ。しかしながら、これらの遺伝子に関する単一もしくは二重変異体の発達種子において、内生ABA量およびAtNCED9の発現量に変化が見られなかった事から、ATHBファミリー内での機能重複性、または他の制御因子の関与が予想された。nced9変異体において正常なAtNCED9遺伝子を胚のみで発現させるコンストラクトを導入した結果、種子におけるABAの蓄積量は回復しなかったが、発芽時のジベレリン生合成阻害剤(パクロブトラゾール)に対する耐性は野生型と同等に相補された。この事から、AtNCED9を介して種皮で合成されるABAは胚で合成されるABAに比べて量的には多いが、種子発芽の制御には胚で合成されるABAが重要である事が示された。野生型と典型的なABA欠損変異体aba2の発達種子におけるトランスクリプトーム解析により、種子形成過程においてABAによって発現が制御される遺伝子を同定した。これらの遺伝子発現の野生型、aba2、nced変異体における比較により、異なる組織で合成されたABAが異なる遺伝子の発現を制御している事が明らかになった。
|