研究概要 |
褐藻類の細胞質分裂は,平板小嚢とゴルジ体由来小胞という2種類の膜構造が関与し,細胞内部で数ヵ所にわたって膜融合が行われる。平板小嚢とは直径が約500nm,高さが20nmの褐藻類の細胞質分裂時に出現する特異的な構造であり,直径が約65nmのゴルジ体由来小胞とどのように融合し,隔膜を形成していくのかについて明らかにすることが本研究の目的である。膜構造の変化について三次元レベルで理解するために,細胞質分裂が行われている褐藻エゾイシゲ接合子について急速凍結置換法で透過型電子顕微鏡用試料を作成し,その試料に対して電子線トモグラフィー解析を行った。その結果,平板小嚢の端にゴルジ体由来小胞が次々に融合することでチューブ状の付属構造ができること,さらにチューブ状構造を介して平板小嚢が連結することで網状膜構造が形成されることが明らかになった。網状膜構造から膜融合がある程度進むと嚢状膜構造が形成されるが立体再構築を行い細胞質分裂面の横断面を観察することで網状膜構造から嚢状膜構造といった膜融合過程の階層化が存在していることも確かめられた。さらに単位体積当たりの膜構造の表面積,体積を計算することにより,隔膜形成のある時期にエンドサイトーシスによる膜成分の回収が行われている可能性も示唆された。また,平板小嚢の形成過程について調べたところ,核分裂後の娘核間に発達する小胞体群の近傍から出現していると思われる構造も捉えられ,平板小嚢形成と微小管との相互関係についても新たに示唆された。
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