研究概要 |
脊椎動物の成体卵巣に、生殖幹細胞およびそのニッチ構造が存在するかは不明であった。我々は、メダカ成体卵巣のgemminal epitheliumに、sox9b発現細胞と卵形成初期の生殖細胞で構成される約600個の単位が存在することを見いだし、この単位にGerminal cradleと名前を付けた。個々のgerminal cradleには形態的に3種類の生殖細胞が存在した。1つ目は一つ一つの生殖細胞がsox9b発現細胞に取り囲まれて独立している生殖細胞(Gs型)、2つ目は複数の生殖細胞が単位となってsox9b発現細胞に取り囲まれているシスト型生殖細胞(Gcys型)、3つ目は減数分裂のディプロテン期の生殖細胞(Gdip型)である。以前、我々は、nanos2が精原細胞および卵原細胞で発現していることを見いだしていたため、germinal cradle内でのnanos2の発現を調べたところ、Gs型生殖細胞のみで発現していることが明らかとなった。そこで、nanos2発現細胞の中に生殖幹細胞が存在しているのではないかと考え、nanos2発現細胞のクローン解析を行ったところ、次世代に寄与する卵はすべてこのnanos2を発現細胞が供給していることが明らかとなった。さらに、成体卵巣をbusulfan処理すると、nanos2を発現するGs型の生殖細胞のみが残るが、3ヶ月後にはシスト型生殖細胞をもつgerminal cradleが回復するという結果が得られた。これらの結果は、nanos2発現細胞の中に配偶子幹細胞が存在していることを示唆していると同時に、sox9b発現細胞から構成されるgerminal cradleには、生殖幹細胞ニッチが何らかの形で存在していることを示している(Nakamura, et al., Science,2010)。
|