本研究計画は神経生理学的手法、行動生理学的手法と計算論的神経科学的手法を用いて無脊椎動物の同定ニューロンの電気生理学・形態学的ばらつき(変異)の細胞全体の振る舞い(特にシナプス出力)への影響を調査・解析することを目的とした。平成21年度は神経生理学的・神経薬理学的手法をもちいて、LDS細胞樹状突起膜の電位依存性膜コンダクタンス、細胞の三次元的構造をそれぞれ異なる標本から記録し、その差異(変異)がどの程度であるか定量化することを目指した。その結果、標本により膜電位依存性膜コンダクタンスに大きな違いがあることが明らかになってきた。しかしながら、ルシファイエローによる細胞染色と電気生理学的記録を同時に同じ細胞で行うことは困難であることも明らかになった。そこで、形態の取得と電気生理学的記録をことなる標本から行うとともに、ルシファーイエローとはことなる染色色素である、ニューロビオチンをもちいて同じ細胞からの形態の取得と電気生理学的記録を試みている。以上の結果は、同じ同定ニューロンといえども、標本個体によってその電気生理学的性質にばらつきのあること、それゆえこのばらつきがこの同定ニューロンのシナプス統合作用になんらかの影響をもちうることを示唆している。今後は今までに得られたデータをもとに、LDS細胞のマルチコンパートメントモデルにこの電位依存性膜コンダクタンスのばらつきを組み込み、そのシナプス統合作用にたいする影響を定量的に調査さしていく予定である。
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