研究概要 |
初年度は,求蜜行動中のアゲハに偏光の振動面の違いがどのように見えているかを明らかにする行動実験と,生理学実験の基盤となる視覚情報の神経経路を解明する解剖学的実験を行った. 求蜜行動を指標とした偏光弁別の行動実験では,アゲハに偏光の振動面の違いが明るさの違いとして見えていることを明らかにした.求蜜行動中のアゲハは,生得的に地面に対して垂直(縦)に振動する偏光を好む.この偏光への嗜好性は,学習によって変えることが非常に困難だが,刺激自体もしく背景の明るさの変化に対じて容易に変えられる.一方、色への嗜好性は学習により簡単に変わり,色の弁別に明るさの変化はほとんど影響しない.以上を考え合わせ,私は求蜜行動中のアゲハには,縦偏光が横偏光よりより明るく見えているという結論に達した,本結果は、まだ明確な答えの出ていない新しい視知覚の神経機構の研究において,研究の意義・方向性を決める重要なものである. 神経解剖学的実験では,主に視覚中枢からキノコ体と呼ばれる領域への投射様式を明らかにした.キノコ体が嗅覚情報と嗅覚記憶と関わる脳領域として注目されている.特に真社会性昆虫では,この領域に視覚情報が入力することから,嗅覚と視覚情報の統合にも関わると予測されている。私はアゲハのキノコ体において非常に大きな入力が、嗅覚中枢のみでなく視覚中枢からあることを発見した.このことは、鱗翅目昆虫のキノコ体も嗅覚と視覚情報との統合を含めた情報処理領域であることを示唆している.視覚中枢からキノコ体への入力には少なくとも3種類あり,それぞれの入力に異なる情報が含まれていると予測している.これらの経路は鱗翅目では初めての報告で,鱗翅目昆虫における感覚情報処理機構の解明に関わる神経生理学的研究において新しい方向性を示した非常に重要な発見である.
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