研究課題
本研究は、「光感覚とその情報処理機構を明らかにする研究」の一環として位置づけられる。特に平成23年度は、鱗翅目昆虫であるアゲハの物体認知における偏光視および明度視の役割に注目した。具体的には、行動観察によって網膜の構成と認知機構の関係を推測し、さらに脳における情報処理経路を組織学的に明らかにする実験的研究を行い、十分な進展を得た。昨年度までに、物体認知において偏光の振動面の違いが明るさの違いとして知覚されているらしいことを突き止めた。そこで明るさが作り出すコントラストが知覚に及ぼす影響を調べる2つ行動実験を行った。その結果、背景の明るさによって物体の明るさが変化して見える「明度対比」がアゲハにあること、着地行動において明度のコントラストの有無が決定的な情報になっていることを見いだした。この明るさの知覚は、偏光視・色覚に関わる紫外・青・緑・赤受容細胞の働きでうまく説明できた。これは、明るさ知覚が単一の視細胞由来であることが常識とされていた昆虫視覚研究において画期的な発見で、アゲハの視覚系がヒトの視覚系と一部似ていることも大変興味深い。物体認知に関わる脳内機構を調べる組織学的実験では、キノコ体をシナプシンとFMRFamidで免疫染色し、共焦点レーザー顕微鏡で作成した連続光学切片像用いて3次元立体構築を試みた。その結果アゲハのキノコ体出力領域も2領域に分かれていることが明らかになった。また、傘部から出力領域に向けて、第2柄部の他もう一つの経路が伸びていることもわかってきた。
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