我々は、摂食調節中枢に特異的に発現している遺伝子の網羅的解析により、鳥類ニワトリの視床下部漏斗部に高い発現を示し、神経ペプチドの前駆体タンパク質をコードしていると考えられる新規遺伝子を発見している。 本研究では、新規遺伝子にコードされている長鎖神経ペプチドを産出し、摂食行動に与える影響を解析することを目的とした。さらに、飢餓状態でのmRNA発現量や新規遺伝子及び神経ペプチドの脳内局在も解析した。 まず、83残基からなると推測される神経ペプチドを大腸菌組換えタンパク質発現系により産出した。産出できた神経ペプチドをニワトリ雛の脳室内に投与し、摂食行動に与える影響を解析した。その結果、神経ペプチドは濃度依存的に摂食行動を抑制させる効果が見られた。さらに、C末端フラグメントペプチドの効果も同様に解析したが効果が見られなかったことから、83残基の構造が活性には重要であることが示唆された。次に、エネルギーホメオスタシスに関与するかどうかを解析する目的で、48時間絶食条件下での新規遺伝子mRNA発現を解析したところ、絶食条件下で新規遺伝子mRNA発現量が有意に増加した。さらに、in situハイブリダイゼーション法と免疫組織化学的解析により神経ペプチドの脳内発現細胞と投射部位を解析した。その結果、視床下部漏斗部内の乳頭体核と漏斗核で神経ペプチドが産出されていることが明らかになった。さらに、神経線維の密な投射は正中隆起であることも明らかになった。これらの解析から、新規遺伝子は摂食行動を含むエネルギーホメオスタシスに関わる遺伝子であることに加え、脳下垂体前葉ホルモンの合成や放出制御に関わっていることが示唆された。
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