研究概要 |
環境動物類のケヤリ(Sabellastarte indica)の生体内には高濃度で遊離D-アルギニンと,そのリン酸化合物である遊離D-アルギニンリン酸が存在している。また,D-アルギニン及びL-アルギニンを共に基質として利用し,D-アルギニンリン酸及びL-アルギニンリン酸を合成することのできる特異なアルギニンキナーゼが存在している。アルギニンキナーゼは無脊椎動物に広く存在するが,現在までにD-アルギニンを基質として利用することができる事が確認されているのは,ケヤリから単離されたアルギニンキナーゼのみである。 これまでの研究によって,既にL-アルギニン及びD-アルギニンの認識に関与することが示唆されていたケヤリ・アルギニンキナーゼの54,64,89,320位のアミノ酸残基について,さらに詳細な検討を行った。これらのアミノ酸残基への様々なアミノ酸置換変異体が野生型酵素に比べL-アルギニン及びD-アルギニンへの基質特異性を大きく変化させる一方で,もう一つの基質であるATPへの基質親和性をほとんど変化させないことを確かめた。 また,本年度はケヤリ以外の無脊椎動物において,D-アルギニン基質とするアルギニンキナーゼが存在するかどうかを確認するために,刺胞動物門,棘皮動物門などに分類されるいくつかの生物種からアルギニンキナーゼ遺伝子を単離した。現在は単離されたアルギニンキナーゼ遺伝子の発現系を構築中であり,発現タンパク質を用いた酵素機能の解明を進める予定である。
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