申請者は、行動変化に関わる神経機構における体液性調節機構の働きを明らかにすることを目的とし、研究を進めている。軟体動物モノアラガイは神経細胞が大きく、そしゃく行動に関連する神経回路が明らかにされている。また、味覚を用いた連合学習ではインシュリン様遺伝子が成績によって変化することが示されている。本研究では、実験動物の利点を生かして「そしゃく神経回路」と「味覚嫌悪学習」に関わる「インシュリン作用機構」の研究を行った。平成21年度は、学習に関わる神経回路におけるインシュリンシグナル応答細胞および応答分子の探索を行った。インシュリンシグナル経路の下流で働く転写調節因子FoxOは、線虫から哺乳類まで広く存在する分子であり、リン酸化と細胞内局在によってインシュリンシグナルのマーカーとして利用できる。このため、まずモノアラガイにおけるFoxO遺伝子クローニングおよび抗体の検討を行った。その結果、モノアラガイ中枢神経系におけるFoxO遺伝子(LymFoxO)を同定し、そのアミノ酸配列が高い種間保存性を示すことを確認した。また、哺乳類FoxOに対する市販抗体の抗原部位配列も保存されていたため、同抗体を用いた免疫組織化学法によりインシュリンシグナル応答細胞の探索を行った。その結果、そしゃく神経回路の多くが含まれる口球神経節のニューロンでは、他の神経節のニューロンに比べてインシュリン処理に対するFoxOリン酸化の感度が良い傾向があることがわかった。以上により、モノアラガイのインシュリン経路のマーカーを確定し、味覚を用いた連合学習に関わるそしやく神経回路においてはインシュリン作用を確認した。
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