本研究の目的は、寄生性原生生物であるパーキンサスに近年見出された色素体の維持機構すなわち包膜を通したタンパク質輸送機構を明らかにし、これを既知の多様な色素体と比較検討することである。昨年度までに、形質転換系の改良を進め、色素体タンパク質DXRに蛍光タンパク質を融合させた株、その色素体移行シグナル配列を変異させた株、さらにはミトコンドリアを蛍光融合タンパク質で標識した株などを作出してきた。本年度は、シグナル配列の変異がタンパク質の局在に与える影響を検証することと、アンチセンスRNAを発現させることによる遺伝子ノックダウン系の開発に取り組んだが、残念ながらいずれも確たる結論を得る段階にまでは至っていない。しかし本研究において実現された形質転換系の改良と、それにより得られた各種の細胞株は、色素体の維持機構を解析しその多様性を論じるためのツールとして重要な成果物であると評価できる。現に、本研究ではDXRに対する蛍光融合タンパク質発現株を用いることで、パーキンサスの色素体包膜が4枚であることが示された。また先行研究では4枚包膜の色素体へのタンパク質輸送にはERADタンパク質が関わるとされているが、そのホモログがパーキンサスの暫定ゲノムデータベース中に見出された。これらは、近縁の渦鞭毛藻の包膜が一般に3枚であっても、祖先的には4枚であったことを示唆する結果であり、chromoalveolate仮説の妥当性を支持するものと言える。本研究で得られたツールを用い、今後さらに実証的な研究を進めることで、色素体を持つ多様な生物群の進化の一端を解明できると期待している。
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