研究概要 |
種子植物の葉は,軸(茎)の側部に着く扁平な器官である.葉が扁平になるためには,向背軸(茎から遠い側と近い側を結ぶ仮想軸)に垂直な方向への葉身伸長が不可欠であり,向背軸の確立は葉の形態形成における要と言える.また,種子植物において大胞子嚢を包む珠皮も扁平で軸(珠心軸)の側部に着く器官であるが,その形態形成に向背軸の確立が果たす役割は良く理解されていない.特に,種子植物の中で祖先的な体制を保持している裸子植物においては,珠皮だけでなく,葉についても,その形態形成に関する理解が遅れている.私たちは,被子植物のシロイヌナズナにおいて,葉の向軸側性質決定に関与することが明らかな,Class III HD-Zip遺伝子の発現を,裸子植物グネツムの胚珠およびシュート頂で観察した.その結果,シュート頂においては,シロイヌナズナと同様に葉の向軸側組織のみで発現することが明らかとなり,Class III HD-Zip遺伝子の向背軸形成における働きが種子植物全体で保存されている可能性が示された.また,胚珠においても,Class III HD-Zip遺伝子は,珠皮の向軸側組織での発現が観察された.この結果は,珠皮と葉が,部分的に,同じ形態形成機構を採用している可能性を示唆しており,このことが,約4億年前に,葉と珠皮が同時に獲得された一因となっているかもしれない.今後,さらなる珠皮と葉の発生機構の比較解析を行うことで,両者の平行進化過程についての理解が進むと期待される.
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