研究概要 |
1970年代の末,東太平洋の熱水噴出孔周辺からシロウリガイなどの特異な動物群が見つかって以来,冷湧水域やクジラ骨・沈木周辺堆積物を含む深海の化学合成生物群集が注目を集めてきた.一方で,ハオリムシやシンカイヒバリガイ類などごく少数の分類群を除き,これらの動物がいつ,どのような環境から化学合成系に進出したのかはよく分かっていない.本研究では,軟体動物腹足綱の複数の系統について,熱水・冷湧水・クジラ骨・沈木および好気的環境に生息する種を含めた網羅的な種間系統樹を作成し,化石記録を参照した上で,各環境への進出の絶対年代とそのルートに関しての一般的傾向を論じる. 平成21年度の実施内容は下記の通りである。1) ネオンファルス上目の諸種について、16S, 28S rRNAの遺伝子配列計約3kbpを追加し解析した結果、同上目の分岐はジュラ紀以前と熱水系の動物としては極めて古いことが示唆された。2) ホウシュエビス上科の分子系統解析について,宮崎大学農学研究科の藤井美幸氏が修士論文の課題としてこれにあたった.約50種について解析した結果、サメの卵中にすむウロダマヤドリ類が本上科に含まれることが判明した。同類は笠型の殻から螺旋を再進化させた唯一の腹足類であると考えられていたが、本成果よりこの説が誤りであることが分かった。3) 西太平洋で初の単板綱の種を得、分子系統解析した結果、同綱の現生種は(熱水性の種を含め)ごく新しい起源を持つことが判明した。4) ハワイ島および沖縄本島において野外調査を行い、浅海の嫌気環境の種および比較用標本を採集した。5) 宮崎大学農学研究科の福森啓晶氏と共にベルリン・ミュンヘン・ジュネーブの博物館を訪問し、模式標本調査を行い、また分子解析用標本の貸与を受けた.
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