本研究では、第三者を介してのみ利用可能な資源に対する特殊化の進化メカニズムを上位目標に掲げだ上で、植食者(ゾウムシ)-ゴール形成者(タマバエ)-寄主植物(タニウツギ)系に見られる専門的えい食性(他者が形成したゴールだけを利用する習性)という間接的な寄主植物の利用形態に着目し、ゾウムシを対象として専門的えい食性の適応的意義を解明玄うことを目的とする。平成21年度は、研究材料であるクロツヤサルゾウムシ(以下、ゾウムシ)属」について、生態情報とDNA分析用標本の収集を目的として、各種の産地で野外調査を行い、ゾウムシの寄主植物、幼虫期の食餌資源およびその資源サイズ・密度、ゾウムシによる寄生率、ゾウムシ寄生蜂による寄生率やゾウムシの生存率、同一資源を利用する競争者の有無とゾウムシの生存に対するその影響を調査した。その結果、ゾウムシによる寄主植物利用様式は、花蕾食および花蕾・虫こぶ食(機会的えい食性)、虫こぶ専門食(専門的えい食性)、さく果食の4型か存在することなどが明らがにたった。また、ゾウムシ属内におけるえい食性の進化過程を明らかにするため、ミトコンドリアCOI遺伝子領域の塩基配列(約1500bp)を決定し、最大節約法・最尤法およびべイズ推定法を用いた分子系統解析を行ってゾムシ内における種間の系統類縁関係を推定した上で、系統樹上での祖先形質復元を行った。さらに詳細な解析が必要であるものの、これまでに得られた結果からは、対象群内では花蕾食が祖先状態であり、そこから一旦虫こぶ食(専門的えい食性/機会的えい食性)が准化した後、虫こぶ食から花蕾食が進化したり、虫こぶ専門食から花蕾・虫こぶ食やきぐ果食が准化するなど、一方向的でない寄主利用様式の進化過程を辿った可能性が示唆されている。なお、調査許可取得の問題などから交付申請書記載の海外渡航計画を変更し、次年度に実施することとした。
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