本研究では、第三者を介してのみ利用可能な資源に対する特殊化の進化メカニズム解明を上位目標に掲げたうえで、植食者(ゾウムシ)―ゴール形成者―寄主植物(タニウツギ)系に見られる専門的えい植性(他者が形成したゴールだけを利用する習性)という間接的な寄主植物の利用形態に着目し、ゾウムシを対象として専門的えい食性の適応的意義を解明することを目的とする。 平成24年度は、前年度に引き続きクロツヤサルゾウムシ(以下ゾウムシ)類について、実験材料や補足的な生態データの収集を目的として日本各地(北海道、茨城県、長野県など)で野外調査を実施し、ゾウムシの寄主植物、幼虫期の食餌資源およびその資源サイズ・密度、ゾウムシによる寄生率、ゾウムシ寄生蜂による寄生率やゾウムシの生存率、同一資源を利用する競争者の有無とゾウムシの生存率に対する影響を調査した。新規サンプルから抽出したDNAや新たに得られた生態データを追加した上で再解析を行い、ゾウムシの系統および対象群内での寄主利用の進化プロセスに関する仮説の精度を高めた。これまでの研究結果から選定した近縁なえい食者と非えい食者を材料として、産卵段階での食餌資源に対する特殊化の程度や食餌資源の質的条件と幼虫期の食餌資源に対する特殊化の程度を明らかにするための生態学的研究を実施した。 その結果、前年度の調査で示唆された、専門的えい食性種の産卵段階におけるゴールへの特殊化傾向に関して追加データが得られた。また、寄生者による影響や同一資源をめぐる競争者によるゾウムシへの影響についても調査した結果、ゴールの方が鳥類の食害による影響を受けやすいことなどが示唆された。
|