本研究の目的は砂漠のような海底に突如として現れる有機物の塊に形成される生物群集における微生物の役割についての理解である。相模湾初島沖の海底にはこれまでに2頭のマッコウクジラの遺骸が存在している。1頭目の「Sagami」は2005年の調査開始から9、16、32、44ヶ月とサンプルを採取しており、今年度には49、57ヶ月後の海底泥も採取に成功した。2頭目の「Satomi」に関しては2008年の調査開始より0、5、13ヶ月の海底泥の採取に成功した。初年度として、これまでに得られたサンプルや新たに採取した海底泥のDNA抽出を行った。これまでの所「Sagami」の9、16ヶ月のBacteriaとArchaeaの16SrRNA遺伝子のクローン系統解析が終了している。これらの結果から、9ヶ月後には硫酸還元菌のDeltaproteobacteriaや偏性嫌気性グラム陽性細菌のClostridium属系統のクローンが検出された。16ヶ月になると、BateroidetesやSpiroheaetesといった生物に寄生、共生して生息する細菌群のクローンも検出された。Archaeaでは、様々な環境から検出されるMiscellaneous Crenarchaeotic Groupや深海堆積物や塩湖から検出されるDeep-sea Hydrothermal Vent Euryarchaeotaといった未分離のクローンが検出されており、16ヶ月後になるとアルコール類や水素を利用するMethanomicrobialesやMethanosarcinalesといったクローンが検出された。これらの事から相模湾初島沖鯨骨生物群集の初期発生では、9ヶ月目には、鯨骨海底下に嫌気的環境が形成されており、16ヶ月後には嫌気性菌などの発酵産物であるアルコール類や水素を利用したメタン生成菌の増加が推測された。
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